「過払い金」ローン残のある自動車を勝手に売ってしまった!

争点
大腸癌
過失

主文

1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1審,2審とも被控訴人の負担とする。
2被控訴人(控訴の趣旨に対する答弁)
主文と同旨

第2当事者の主張

1被控訴人(請求原因)
(1) 当事者
控訴人は,自動車販売等を業とする株式会社であり,被控訴人は,その顧客である。
(2) 新車両売買契約の締結
控訴人と被控訴人は,平成13年11月21日,被控訴人が控訴人からメルセデスベンツE240T1台(以下「新車両」という。)を販売価格431万4150円で購入する旨の自動車売買契約(以下「新車両売買契約」という。)を締結した。
(3) 旧車両の下取り
控訴人と被控訴人は,平成13年11月21日,新車両売買契約の締結に際し,次のとおり,被控訴人が所有していたローン支払中の中古車両1台(メルセデスベンツ320CE,以下「旧車両」という。)の下取りに関する合意をした。
ア控訴人が旧車両を下取りする。
イ下取代金を総額147万7511円とする。
ウ上記代金のうち101万3361円(以下「本件預り金」という。)で旧車両残代金101万3361円を清算する。
エ下取代金残金46万4150円は,新車両の代金の一部に充当する。
(4)本件委任契約の締結
控訴人と被控訴人は,平成13年11月21日,旧車両の下取りに関する合意に際し,控訴人が,本件預り金101万3361円でもって,旧車両残代金の清算処理を行うことを合意した(以下「本件委任契約」という。)。
(5) B信販による立替払
旧車両は,自動車販売業者であるAが被控訴人に販売したものであるが,その際,ローン会社であるB信販がAにその代金を立替払いしている。
それゆえ,旧車両残代金の債権者はB信販である。
(6)本件預り金返還義務の根拠
アしたがって,控訴人は,本件委任契約に基づき,旧車両残代金の債権者であるB信販との間で,旧車両残代金の清算処理を行う義務を負っていたのである。
ところが,控訴人は,B信販との間で上記清算処理を行っていない。
イところで,本件委任契約においては,当然の解釈として,控訴人は,本件預り金101万3361円を,旧車両残代金101万3361円の清算目的のみに使用しなければならない義務がある。
ウそれゆえ,控訴人は,本件預り金101万3361円を旧車両残代金101万3361円の清算目的に使用して,その処理を適正に履行しない限り,民法646条1項に基づき,被控訴人に対して,本件預り金101万3361円を返還する義務があるというべきである。
(7)本件預り金の一部返還
ところが,控訴人は,平成14年7月4日に,本件預り金101万3361円のうち55万3361円を被控訴人に送金したのみで,本件預り金残金46万円を返還しない。
(8) 結 論
よって,被控訴人は,控訴人に対し,本件委任契約に基づく預り金返還請求権(民法646条1項)に基づき,本件預り金残金46万円の返還,及びこれに対する催告日の翌日である平成14年8月3日から完済まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 控訴人(請求原因に対する認否)
(1) 請求原因(1)(当事者),同(2)(新車両売買契約の締結),同(3)(旧車両の下取り),同(4)(本件委任契約の締結)は認める。
(2)請求原因(5)(B信販による立替払)は知らない。
(3)請求原因(6)(本件預り金返還義務の根拠)は争う。
(4)請求原因(7)(本件預り金の一部返還)は認める。
3控訴人(抗弁旧車両残代金の清算処理を履行したこと)
(1) 被控訴人の説明等に従った清算処理の履行(抗弁1)
ア 被控訴人の説明・指示等
被控訴人は,本件委任契約の締結に際し,控訴人に対し,旧車両残代金の債権者はAである旨説明・指示し,また,B信販が債権者である旨の告知を一切していなかった。
そこで,控訴人は,被控訴人の上記説明・指示等に従って,Aとの間で,次のイ,ロのとおり旧車両残代金の清算処理を行った。
イ旧車両残代金債務の一部(46万円)の相殺処理
(ア)自働債権の存在
控訴人は,Aに対し,平成13年6月8日,フェラーリ1台を代金546万円で売却し,残代金46万円の売掛債権を有していた。
(イ)相殺合意(主位的主張)
そこで,控訴人とAは,平成13年11月24日ころ,控訴人のAに対する上記(ア)の売掛債権46万円と,Aの控訴人に対する旧車両残代金債権101万3361円とを,対当額で相殺するとの合意をした。
(ウ)相殺の意思表示(予備的主張)
仮に,上記(イ)の相殺合意が認められないとしても,控訴人は,平成13年11月24日ころ,Aに対し,控訴人のAに対する上記(ア)の売掛債権46万円を自働債権とし,Aの控訴人に対する旧車両残代金債権101万3361円を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした。
ウ 旧車両残代金債務の残部(55万3361円)の処理
他方,控訴人とAは,平成13年11月24日ころ,相殺後の旧車両残代金債務の残部55万3361円については,控訴人のAに対する売掛金債務として残すことを合意した。
エ まとめ
よって,控訴人は,委任者たる被控訴人の説明・指示等に従い,Aとの間で,前記イ及びウのとおり,旧車両残代金の清算処理を適正に履行したというべきであるから,本件預り金101万3361円の返還義務を負うものではない。
もっとも,被控訴人が,平成14年6月中旬以降,控訴人に対し,本件預り金101万3361円の返還をやかましく言うので,控訴人は,Aの同意を得て,平成14年7月4日,被控訴人に対し,本件相殺後の残金55万3361円を送金した。
(2)民法478条の類推適用による清算処理の履行(抗弁2・予備的主張)仮に,前記(1)アの被控訴人による説明・指示等の事実が認められないとしても,民法478条(債権の準占有者に対する弁済)の類推適用により,前記(1)イの相殺合意又は相殺の意思表示は有効となるから,旧車両残代金債務は消滅し,旧車両残代金の清算処理の履行は完了している。
その理由は,次のとおりである。
ア 相殺への民法478条の類推適用
民法478条は,相殺にも類推適用されると解すべきである(最高裁昭和48年3月27日判決・民集27巻2号376頁参照)。
なお,被控訴人には,前記のとおり旧車両残代金の真の債権者を告知していなかった過失があり,かかる過失によって生じたリスクを控訴人に一方的に転嫁することは信義則に反するものである。
このことからも,本件において同条を類推適用する基礎があるというべきである。
イ 民法478条の要件該当性
(ア) 債権の準占有者の存在
Aは,旧車両の自動車登録上の所有権者となるなど,あたかも自己が旧車両残代金の債権者であるかのように振る舞っていた。
(イ) 控訴人の善意・無過失
控訴人は,本件相殺の際,Aが旧車両残代金の債権者であると信じ,次のとおり,そのように信じていたことに過失もなかった。
a 控訴人は,本件委任契約締結時,被控訴人からB信販による立替払の事実を告知されていなかった。
b Aは,控訴人からの旧車両残代金確認の照会の際や本件相殺時のいずれにおいても,控訴人に対してB信販による立替払の事実を告知していなかった。
c 本件相殺時,旧車両の自動車登録上の(留保)所有権者はA名義となっていた。
4 被控訴人(抗弁に対する認否等)
(1) 抗弁1(被控訴人の説明等に従った清算処理の履行)についてア抗弁(1)ア(被控訴人の説明・指示等)は否認する。
被控訴人が,本件委任契約の締結に際し,控訴人に対し,旧車両残代金の債権者はAである旨の説明・指示をした事実はない。
イ 抗弁(1)イ(相殺処理)について
(ア)同(ア)(自働債権の存在)は知らない。
(イ)同(イ)(相殺合意)及び(ウ)(相殺の意思表示)は否認する。
ウ 抗弁(1)ウ(相殺後の残額の処理)は否認する。
(2) 抗弁2(民法478条の類推適用)は争う。
民法478条が相殺に類推適用されるのは,いわゆる預金担保の類型に限られ,本件のごとき一般的な相殺には類推適用されないと解すべきである。
理由
第1 請求原因の検討
1 争いのない事実等
(1)請求原因(1)(当事者),同(2)(新車両売買契約の締結),同(3)(旧車両の下取り),同(4)(本件委任契約の締結),同(7)(本件預り金の一部返還)は,当事者間に争いがない。
(2)証拠(甲3,6,7)によると,請求原因(5)(B信販による立替払)が認められる。
(3)証拠(甲4の1・2)によると,被控訴人が,平成14年8月2日,控訴人に対し,本件預り金残金46万円の支払を求めたことが認められる。
2請求原因(6)(本件預り金返還義務の根拠)の検討
前記1の争いのない事実等に,証拠(甲3,7,8)を総合すると,次のとおり認めることができる。
(1)控訴人は,本件委任契約に基づき,旧車両残代金の債権者であるB信販との間で,旧車両残代金の清算処理を行う義務を負っていたのである。
ところが,控訴人は,B信販との間で上記清算処理を行っていない。
(2)ところで,控訴人は,本件委任契約に基づき,本件預り金(旧車両残代金)101万3361円を,旧車両残代金の清算の目的のみに用いなければならない義務がある。
それゆえ,控訴人は,本件預り金101万3361円を旧車両残代金の清算目的に使用して,その処理を適正に履行しない限り,民法646条1項に基づき,被控訴人に対して,本件預り金101万3361円を返還する義務があるというべきである。
(3)以上の本件委任契約の趣旨及び内容にかんがみれば,控訴人は,旧車両残代金の清算処理を履行したことを主張立証しない限り(すなわち抗弁1又は2が認められない限り),民法646条1項により,被控訴人に対し,本件預り金残金46万円,及びその遅延損害金の支払義務を負うというべきである。
第2抗弁1(被控訴人の説明等に従った清算処理の履行)の検討
1 事実の認定
前記第1の1の争いのない事実等に,証拠(甲13,5,7,8,乙1,2,6,911,13〔一部〕),及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1) B信販による旧車両代金の立替払等
ア被控訴人は,平成10年7月ころ,Aから旧車両(メルセデスベンツ)を購入し,その際,B信販との間で,旧車両代金の立替払を委託する旨の立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結した(甲3,5)。
本件立替払契約は60回分割払の約定であり,被控訴人は,毎月,B信販に対し,被控訴人の銀行口座から月額5万2500円の分割金を支払う内容であった。
イ そこで,B信販は,本件立替払契約締結後,Aに対し,旧車両売買契約の代金全額を立替払いし,被控訴人に対する旧車両代金の債権を取得した。
そして,被控訴人は,平成10年8月から,本件立替払契約に基づき,B信販に対し,銀行引き落としの方法で,毎月5万2500円ずつ分割金を支払ってきた。
(2) 本件委任契約の締結に至る経緯等
ア被控訴人は,新車両売買契約の締結(平成13年11月21日付)に先立ち,控訴人に対し,旧車両の購入先がAであること,旧車両代金の残高があることを説明していた。
イ控訴人は,被控訴人の上記説明を受けて,Aに対し,旧車両代金の残高について照会したところ,平成13年11月20日,Aから,ファックス書面にて,旧車両代金の残高が101万3631円である旨の回答を受けた(乙6)。
上記ファックス書面には,旧車両代金の債権者がB信販である旨の記載はなかった。
ウ そこで,控訴人は,上記回答に基づいて下取車相殺額等を計算した上,新車両売買契約の契約書(甲2,乙10。
以下「新車両契約書」という。)を作成した。
その際,控訴人は,新車両契約書の下取車残金欄の下に「(A)」と記載した。
エ そして,控訴人と被控訴人は,平成13年11月21日,新車両契約書に署名(記名)押印して新車両売買契約を締結するとともに,本件委任契約を締結した。
(3)本件委任契約締結後の事情等
ア被控訴人は,控訴人が,平成13年11月21日の直後ころ,本件委任契約に基づき,本件預り金101万3361円でもって,B信販に対し,旧車両代金の残高(B信販のローン残高)101万3361円を支払ってくれているものと思っていた。
イところが,被控訴人は,平成14年6月14日になって,B信販からローン残高確認書(甲3)の送付を受け,平成13年12月以降も,引き続き,旧車両残高のローン引き落とし(B信販に対する銀行口座からの自動引き落としによる支払)が続いていることに気付き,控訴人に厳重に抗議した。
ウこれに対し,控訴人は,当初は申し訳ないと言っていたが,その後,平成14年7月4日に,本件預り金(旧車両残代金)101万3361円の内金55万3361円のみを被控訴人に送金し(乙1),残額46万円については,「控訴人がAに対して有していた売掛債権46万円と相殺した。」と主張して,支払わなかった。
エなお,Aは,資本金1000万円の零細な自動車販売会社であり(乙2),平成14年6月21日,福岡地方裁判所に破産申立てをし,同年8月7日,同裁判所から破産宣告を受けて倒産している(乙11)。
2 検討
(1)被控訴人が旧車両残代金の債権者はAである旨説明したか
ア当裁判所の判断
上記1認定のとおり,被控訴人とB信販との間において,本件立替払契約が締結されたことが認められ,さらには,被控訴人が,本件立替払契約の締結に際して,B信販の名称の記載された「オートローン契約書」(甲5)に署名押印していることをも考え併せると,被控訴人は,旧車両代金の債権者がB信販であることを,契約当事者として当然に認識していたものというべきである。
そうすると,被控訴人が,平成13年11月21日,控訴人との間で,本件委任契約の締結するに際し,控訴人に対し,上記事実に反して,旧車両残代金の債権者がAである旨の説明や指示を行うことは,いかにも不自然であるといわざるを得ず,また現に,被控訴人が上記のような説明や指示を行ったことを認めるに足りる的確な証拠もない。
したがって,旧車両残代金の債権者がAである旨の被控訴人による説明・指示があったとの事実は,認められないというべきである。
イ 控訴人主張の検討
(ア)これに対し,控訴人は,新車両契約書(甲2,乙10)の下取車残金欄の下に「(A)」と記載したのは,被控訴人から旧車両残代金の債権者がAである旨の説明・指示があったからである旨主張する。
(イ)しかしながら,上記記載は,単にAの名称が記載されているにとどまり,読み方によっては,旧車両の購入先を明確にする等の趣旨で記載されたとも理解できるものであるから,これを直ちに旧車両残代金の債権者との意味として理解するには,内容が不明確であるといわざるを得ない。
(ウ)加えて,前記1の認定事実によれば,新車両契約書は,新車両売買契約の締結に先立ち,控訴人において作成したものであるところ,控訴人が,被控訴人との間で,上記(ア)で指摘した記載を入れるに際して,何らかの話合い等を行ったり,新車両契約書の署名押印に際して,上記記載の趣旨を確認したなどの事実はうかがわれない。
(エ)そうすると,仮に,控訴人が,Aからのファックス回答などから,旧車両代金の債権者がAであると誤解して上記記載を行ったものであるとしても,これが控訴人と被控訴人との間での明確なやりとりの下で行われたものとは認められない以上,上記記載を被控訴人による説明・指示があったことの裏付けとして評価することはできない。
(オ)以上によれば,新車両契約書の下取車残金欄の下に「(A)」と記載されているからといって,被控訴人が,平成13年11月21日,控訴人との間で,本件委任契約を締結するに際して,控訴人に対し,旧車両残代金の債権者がAであると説明・指示をしたものとは認められない旨,認定をすることの妨げとはならない。
(2) B信販が債権者である旨の告知が一切なかったとの主張についてアさらに,控訴人は,本件預り金101万3361円の返還義務を免れる理由として,被控訴人が,控訴人に対して,B信販が旧車両残代金の債権者であることを一切告知していなかったことをも主張している。
イしかしながら,自動車の売買契約においては,立替払契約が多く利用されているところであり,控訴人は,自動車販売業者としてこのことを十分に認識し得る立場にあったというべきであるから,仮に,顧客である被控訴人がB信販による立替払の事実を積極的に告知しなかったとしても,このことが,直ちに,本件委任契約の当事者として不適切な対応であったとまではいい難い。
ウそもそも,Aは,資本金がわずか1000万円の零細自動車販売会社である(前記1(3))。
同じ自動車販売会社であり,輸入自動車販売業界の内情を知り尽くしているといえる控訴人が,Aのような零細な自動車販売会社が,高級外車である旧車両をA自身の割賦販売により販売していたものと信じたとすると,控訴人が,そのような異常な販売方法(めったにない販売方法)を無謀にも存在すると信じたことについては,極めて重大な過失があったものといわざるを得ない。
エ以上の諸事情に照らせば,仮に,被控訴人が,本件委任契約の締結に際し,控訴人に対し,旧車両残代金の債権者がB信販であることを告知しなかったとしても,控訴人が本件委任契約に基づく本件預り金の返還義務を免れる理由にはならないというべきである。
(3) 結論
以上によれば,控訴人が,Aとの間で,旧車両残代金について,相殺の合意又は相殺の意思表示によって清算処理を行ったとしても,その前提となる被控訴人の説明・指示の事実等が認められない以上,本件委任契約の本旨に従った清算処理の履行が完了したとは認められない。
よって,抗弁1は理由がない。

第3 抗弁2(民法478条の類推適用)の検討

1 控訴人の主張
控訴人は,同じ債権消滅事由である相殺と弁済とを区別する理由はないなどとして,本件相殺の合意又は相殺の意思表示については,民法478条(債権の準占有者に対する弁済)の類推適用があり,本件預り金残金(旧車両残代金)46万円が消滅したと主張する。
2検討1
しかし,弁済と相殺とでは,同じ債権消滅事由であるとはいえども,前者が金銭の現実の給付を伴うのに対し,後者が相対立する債権をいわば観念的に消滅させるものにすぎないという点において,その法的性質を異にするものであり,かかる差異からすれば,債権の準占有者に対して行った場合の保護の必要性の程度が,両者間において根本的に異なるといわざるを得ない。
そして,債権の準占有者に対する弁済を保護した民法478条は,いったん流失した金員(弁済金)を取り戻すことの困難性にかんがみて,過失なき弁済者を保護するための規定である。
それゆえ,債権の準占有者に対して相殺を行った者を同条の類推適用によって保護し得るのは,金融機関によるいわゆる預金担保貸付けと相殺の事例など(最高裁昭和48年3月27日判決・民集27巻2号376頁,最高裁昭和59年2月23日判決・民集38巻3号445頁参照),弁済に準ずる金銭の現実の給付行為である貸付けが行われており,実質的に弁済と同視できる程度に相殺者を保護すべき事情が存する場合に限られると解するのが相当である。
しかるに,本件は,被控訴人から旧車両残代金の清算処理を引き受けた控訴人が,上記代金債権の準占有者に対してたまたま有していた売掛金債権による相殺を主張しているにすぎず,弁済に準ずる金銭の現実の給付行為がなされていないのであり,上記のごとき相殺者たる控訴人を保護すべき実質的事情は全く見当たらず,類推適用の基礎を欠くといわざるを得ない。
3検討2
なお,仮に,被控訴人が,控訴人に対して,旧車両残代金の真の債権者が誰であるかを告知していなかったとしても,そのことが,控訴人を保護すべき理由にはならないことは,前記第2の2(2)のとおりであるから,上記事情を478条の類推適用の基礎として考慮することはできない。
4まとめ
したがって,抗弁2は,控訴人とAとの間の相殺の有無等を判断するまでもなく,失当というべきである。

第4 結論

1 以上によれば,控訴人は,本件委任契約による預り金返還義務(民法646条1項)により,被控訴人に対し,本件預り金残金46万円,及びこれに対する催告日の翌日である平成14年8月3日から完済まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
2よって,被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。

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